マインドとしてのあなたを、あえて“肉体”にたとえてみます。
「あなたは肉体じゃない」と言いながら肉体にたとえるのは矛盾していますね。
ですが、今のところはこのほうがいくらかイメージしやすいと思うのです。
あるところに、『小ゆびちゃん』という女の子がいました。
『小ゆびちゃん』は、ある人の右手の小指です。
小指の『小ゆびちゃん』にとって見える世界は、同じ右手の指たちだけです。
他にはなんにも見えません。
『小ゆびちゃん』は、隣の『薬ゆびちゃん』と大の仲良しです。
自分のことをなんでも話せる親友です。
そのまた隣の『中指くん』に対しては密かに恋心を抱いていて、
彼のことを他の指とは違う「特別な指」だと思っています。
『小ゆびちゃん』は『中指くん』の隣の『人差しゆびちゃん』が大嫌いです。
『小ゆびちゃん』と『人差しゆびちゃん』はいつもお互いの悪口を言っています。
『親指くん』のことは好きでも嫌いでもありません。
あまり親しくしたことがないので『小ゆびちゃん』にとっては空気のような存在です。
そんなある日、『小ゆびちゃん』にこんな声が聞こえてきました。
「あなたは本当に小指ですか?」
『小ゆびちゃん』はその声の意味がわかりませんでした。
だからその声は自分の気のせいだと思って忘れてしまいました。
しかし、その日を境に、『小ゆびちゃん』にはくり返しその声が聞こえるようになりました。
「あなたは本当に小指でしょうか?」
『小ゆびちゃん』は答えます。
「もちろん小指に決まってるじゃない」
しかし、その声はまたこう言います。
「あなたは本当に小指でしょうか?」
そしてこうも言います。
「あなたは本当の自分を忘れてしまいました。あなたはそれを思い出さなくてはなりません」
『小ゆびちゃん』は怒って言いました。
「じゃあ、私は誰なの!」
その声は言います。
「それはあなたが自分で思い出さないといけません」
『小ゆびちゃん』は「うーん……」と考え込んでしまいました。
『小ゆびちゃん』は自分が小指だってことを疑ったことはただの一度もありません。
自分のどこをどう見ても小指にしか見えなかったからです。
もしも他の指たちに「私は本当に小指かしら?」と聞いたところで、
「そんなの当たりまえでしょ」と一笑されてしまいます。
「どうしたらそれを思い出せますか?」
小ゆびちゃんの質問にその声はこう答えました。
「あなたは他の指たちに【怖れ】をもっています。その【怖れ】がなくなれば、きっと思い出せるでしょう」
『小ゆびちゃん』は考えました。
「私は他の指たちの何が怖いんだろう?」
『小ゆびちゃん』は他の4本の指について、自分がどんな【怖れ】をもっているのか考えました。
他の指のことを順番に思い浮かべてみましたが、なかなか答えが見つかりません。
一生懸命考えました。
考えてもわからないので考えるのをやめようかと思いましたが、
あの声がいつまでも頭から離れません。
そして、ある結論に達しました。
「私は『薬ゆびちゃん』が私のそばから居なくなったら怖いと思っている」
「私は大好きな『中指くん』に嫌われるのが怖いと思っている」
「私は『人差しゆびちゃん』を怖いと思っている。彼女は私の悪口を言うから」
「私は『親指くん』を怖いと思っている。彼がどんな人なのか、ほとんど何も知らないもの」
「どうしたの?」
一人で考え込んでいる『小ゆびちゃん』に、親友の『薬ゆびちゃん』が声をかけました。
『小ゆびちゃん』は一人で悩むのがイヤになって、『薬ゆびちゃん』にすべてを話しました。
すると『薬ゆびちゃん』は、
「思いきってみんなに話してみようよ」と言うと、『小ゆびちゃん』が聞いた声について他の指たちに話してみました。
他の指たちは、じっとその話を聞いたあと、順番に話しはじめました。
『親指くん』が言いました。
「ボクも『小ゆびちゃん』がどんな人かよくわからない。だから『小ゆびちゃん』を怖いと思ってる」
『人差しゆびちゃん』が言いました。
「私も『小ゆびちゃん』を怖いと思ってる。私の悪口言ってたって聞いたもん」
『中指くん』が言いました。
「オレは『小ゆびちゃん』に特別だと思われなくなるのが怖いと思ってる」
そして最後に『薬ゆびちゃん』が言いました。
「私も『小ゆびちゃん』が私のそばから居なくなったら怖いよ」
みんなの告白を聞いた『小ゆびちゃん』は思いました。
「なんだ、みんな怖かったんだ。みんな私とおんなじだったんだ……」
みんなが相手に【怖れ】をもっていて、
みんなが自分と同じだってことをはじめて感じられたのです。
みんなが同じ【怖れ】をもっているとわかったら、
『小ゆびちゃん』の中からみんなへの【怖れ】がスーッと消えていきました。
その瞬間、『小ゆびちゃん』の目にあるものが見えました。
これまで一度も見えなかった右手全体が見えたのです。
自分たち5本の指は、つながっている一つの手だということに生まれてはじめて気づいたのです。
「そうか。私は右手そのものだったんだ」
その日から『小ゆびちゃん』はちょっぴり変わりました。
親友の『薬ゆびちゃん』はどこにも行かないことに気づいて安心しました。
だってつながっているのですから。
『中指くん』のことは今でも好きです。でも以前ほど「特別」だとは感じなくなりました。
だってみんな同じ手で、同じ指ですから。
『人差しゆびちゃん』のことは親友とまではいかないけれど、以前のように悪口を言い合うことはなくなりました。
同じ指ですから。
『親指くん』のことはもっとよく知りたいと思うようになりました。
でも不思議なことに同じ指だとわかったら、前からよく知っているような気がしてきました。
自分が右手だったと思い出した『小ゆびちゃん』の生活は、以前と何も変わらないように見えます。
でも『小ゆびちゃん』は、みんなのことがちょっぴり愛おしいと思うようになりました。
そして、自分が小指でありながら、同時に【右手である自分】も感じられるようになっていきました。
しばらくすると『小ゆびちゃん』にさらなる変化が起こりました。
「そうだ! 私は右手でもあるし、右腕でもあったんだ」
「そうだ! 私は左手でもあるし、左腕でもあったんだ」
どんどん思い出していきました。
「そうだ! 私は両足でもあるんだ。そうだ、そうだったんだ!」
そして、最後にはこう思います。
「そうか!この体ぜんぶが私だったんだ!!!」
『小ゆびちゃん』はついに『本当の自分』を思い出したのです。